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三十一話 力になりたい女性はただ一人 ~シグムントSide~

Author: Tubling
last update Last Updated: 2025-06-18 21:08:12

父上やダンティエス、ロヴェーヌ公爵の前で「必ず私が射止める」と啖呵を切り、王宮を後にしたものの、具体的に私が出来る事は限られていて、とにかく彼女を狙う者から守る為にも出来る限り傍についていようと決めたのだった。

 私自身が彼女の傍にいたいという想いもあったが……その辺は己の邪な気持ちを振り払った。

 カールの事件があったので、ディアにはしばらく庭園に行かない方がいいと伝える。

 彼女は気付いていないが、カールは恐らくディアの事が好きなのだろう。その気持ちをいいように操られてしまったのだ。

 彼にかけられていた魔法は複雑で、それこそ解呪するのはほぼ不可能と思われる邪魔法だった――――あの時ディアが自分で解呪出来なかったらどうなっていたかと思うと今でも恐ろしくなってしまう。

 彼女を狙う者はカールの気持ちを分かっていて利用している。

 私の推察だが、そこまで分かるというのはやはり犯人は学園にいて、ディアの行動や周りの人々の事をよく観察している人物ではないかと考えられる。

 そうだとすると、今はあまり庭園に近づかない方がいい。

 決して私が彼女をカールに近づかせたくないわけではなく…………いや、それも大いにあるな。

 独占欲にまみれた自分の気持ちを振り払いながら、真面目な彼女が恐らく聖魔法の練習をするだろうと考え、急いで仕事を終わらせた私は公爵邸を訪れる事にした。

 突然の訪問は良くないとは思ったが、嫌な顔をせずに私を受け入れてくれて、ホッと胸をなでおろす。

 そして聖魔法を使っている彼女は女神のようだった――――

 私の光魔法と彼女の聖魔法は相性がいいと言われている。

 光魔法は聖魔法から派生したとも言われているし、私の力が彼女の助けになるのではと思い、手を握って補佐してみたのだ。

 案の定彼女の能力を安定させ、そして高める事も出来た。

 これはとても大きな事だ。私にもラクーのような役割が出来た事が嬉しくて思わず笑みがこぼれてしまう。

 補佐したいと思って握った手だったが、とても華奢で柔らかい彼女の手をずっと握っていたい気持ちに駆られた時の事を思い出し、顔に熱が集まってくる……私にしては少し大胆だったかもしれない。

 そして聖魔法の練習をした後にカリプソ先生の話をされ、彼女の話を少しする事になった。

 「カリプソ先生は今年からやってきたってマデ
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     カリプソ先生とお話をした日の放課後、私は庭園には寄らずに邸に戻って聖魔法の練習をする事にした。 カールとの事があって、ジークには少し庭園に行くのは控えた方がいいと言われてしまう。 階段から突き落とされた事といい、何者かに狙われているのは明らかなので心配してくれてるんだろうな、と思うと彼の言い分も無下には出来ない。  それに何となく胸騒ぎというか、もしカールの時みたいに私の聖魔法が必要になる日が来たらという焦燥感に駆られていたのだった。  練習しておくに越した事はないと思うので、出来る限り聖魔法に慣れておきたい気持ちが強い。 外でこの魔法を使って見られてしまうのは危険だから、邸で練習するしかないわね。 帰りの馬車の中でもマデリンとカリプソ先生とのやり取りや、生徒達の様子などを思い出し、カリプソ先生に若干の違和感を感じていた。 今度ジークに聞いてみようかな……彼ならカリプソ先生が来た経緯なども知っているだろうし。  ゲームには恐らく登場していないキャラクター。 それに加えて美人、人気者、色気もあって、大人な雰囲気――――ジークが連れてきたわけじゃないわよね? 色々と考えていると胸がモヤッとしてくる。 「?」 自分の胸に手を当ててみるけど体調が悪いわけではない。 カリプソ先生の事を考えると妙にモヤモヤしてくるのが嫌な予感なのか、自分の中の気持ちなのかはっきりしないまま馬車は公爵邸に着き、セリーヌや邸の人達が出迎えてくれる。 「お嬢様、お帰りなさいませ!お仕事お疲れ様です!」 「セリーヌ、皆、ありがとう。着替えたら庭に行くわ。集中したいから誰からの連絡も入れないでね」 「承知致しました!」 聖魔法を使っているところを誰にも見られたくないので、一応皆に誰も取り次がないように伝えておいた。 お父様は私の力について知っているのかしら……最近は忙しいようで一緒に食事もとれていない状況なので、まだ確認出来ずにいるのよね。 お父様になら話しても大丈夫、よね? 自室に着いて仕事用のローブを脱ぎ、動きやすいシュミーズドレスに着替えたらすぐに庭へと移動する。  庭園は思わず感嘆の声が漏れてしまうくらいとても美しく、庭師の人がとても素晴らしい仕事をしている事は一目見たら分かるほどだった。  こんなに見事な庭は学園と我が家くらいではと思う

  • 孤独な悪女は堅物王太子に溺愛される~犬猿の仲でしたがうっかり誘惑しちゃってたみたいで乙女ゲーム的な展開が待っていました~   二十六話 カリプソ先生の調教

      「こんにちは、クラウディア先生。お久しぶりですね」 カリプソ先生が柔らかい笑みをたたえながら、優雅に声をかけてくる。  「あ、ええ、そうですわね。確かプリントを拾っていただいた時以来かしら……その節はありがとうございます!助かりましたわ」 「そんなお礼を言われるほどの事ではありませんわ。マデリンもこんにちは」 「……………………」 マデリンはカリプソ先生をチラッと見た後視線を手元に戻し、作業に集中する。 完全に嫌いモードなのね……私に対してより酷いかもしれない。 「聞いたわよ、魔力が暴走したのですって?理事長先生が巻き込まれて大変だったとか……クラウディア先生にしっかりと風魔法を学んだ方がいいわね。いつか怪我をしてしまうわ」 カリプソ先生がジークの話題を振ると、マデリン反応して立ち上がり、腕を組んだままカリプソ先生とのにらみ合いが始まる。 「あなたに言われる筋合いはありませんわ。先生と違って私は魔力量も多いし優秀なの。それに理事長先生はクラウディア先生をかばったのであって、相手がカリプソ先生ならかばったかどうかは怪しいですわね」 「優秀な人は人に向けて魔法を使ったりはしないのよ」 2人のやり取りを見ていると火花が散っているのが見える気がする……お互いににらみ合い、威嚇しているけどカリプソ先生の方がやはり大人なのかマデリンから視線を外し、余裕の笑みを浮かべて私の方へ向き直った。 「クラウディア先生、このクラスには気性の荒い猫が紛れ込んでいるようなのでお気をつけくださいね。何かあればいつでも保健室にいらしてくださいませ」 「ありがとうございます……心配してくださって嬉しいですわ。でもその猫はとても優秀で可愛らしいのですよ。素直な面もありますし、カリプソ先生のお手を煩わせるような事にはならないと思うので、ご心配にはおよびません。きっと理事長先生もそう思ってますわ」 私はマデリンの方を見て軽くウィンクする。 カリプソ先生の圧が凄くて半分引き気味になってしまったけれど、自分のクラスの生徒を危険人物扱いされて黙っているわけにはいかない。 「そう……それなら良いのですけど。では私はそろそろこれで」 カリプソ先生は私の言葉にあまり納得していない様子だったのに、食い下がるわけでもなくあっさりと立ち去ってしまったのだった。 嵐が去ったかのよ

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